小田和正風フォントを作ってみた
牛が大好きなちくわうしです。
今回は“小田和正”風のフォント作りにチャレンジします。
なに言ってるかよく分からないと思うので、順を追って説明しましょう。
◆ 小田和正をご存知か?
まず、小田和正をご存知だろうか?
1970年にバンド「オフコース」のボーカルとしてプロデビューし、現在もソロで精力的に活動する国民的アーティスト。
若い人でも、この曲はテレビCMで聴いたことがあるかもしれない。
時を超えて 君を愛せるか
ほんとうに君を 守れるか
空を見て 考えてた
君のために 今何ができるか
(小田和正『たしかなこと』より)
それでは次に、小田和正の
ラブ・ストーリーは突然に
を知っているだろうか?
この曲が今回の主人公だ。
この曲は、1991年に発売された小田和正の代表曲で、CD売上枚数が250万枚を超えるバケモノ級のヒット曲。
YouTubeに公式動画がないので、代わりにクリス・ハートのカバー版を聴きながら読んでほしい(えげつない歌唱力です)。
心つかむ「チュクチュン」のイントロ。
キャッチーな“あの日 あの時 あの場所で”。そしてハイトーン・美・ボイス。
このアーバンアーバンしたメロディが、そこまで疲れてない心にもビンビンしみわたる!
◆ なぜフォントを作ろうと思ったか?
事の発端はこの曲のCDジャケット。
横向きの小田和正がつま先立ちでのけぞり、何かを叫んでるかのようなこのポーズが、ひらがなに見えたのだ。
「は?」
と思って当然。
ぜひこちらをご覧ください。
「理解」
と思って当然。
それほど、左右反転した小田和正と「く」はそっくり。白背景に黒いスーツだからなおさら文字っぽく見えるのかもしれない。
そして、昔からデザインフォントが好きな僕は、これをベースにしたひらがなフォントを作ってみよう! と思ったのだ。
世におもしろポーズは無限にあるけど、フォントにしたいポーズってそうそう無い。
◆ 撮影に行こう!
フォント作りにあたっては、元写真のトレースはせず、小田和正のポーズをマネした僕の写真をベースにしよう。
が、築数十年の我が家にあんな真っ白なスペースはないので、外で撮ることに。
朝6時に早起きし、小田和正がのけぞるにふさわしい場所を探しに出発だ。
いくつもの代表曲を歌いながらウロウロしていたら、開けた場所が見つかった。人も見当たらないしこの場所にしよう!
歌詞の中では
“多分もうすぐ 雨も止んで 二人 たそがれ”
と小田和正は雨の中でのけぞってるわけだが、こちらは
“もうすでに今 炎天下の朝 一人 撮影”
と真逆のシチュエーションだ(逆?)。
ではカメラをセットしたらポーズを……
できないっ!!!
これが、見るとやるとでは大違い……!
体が固く、あの角度に身体をそらすのがめちゃくちゃつらい。のけぞってはバネのようにボヨンと元に戻るの繰り返しだ。
たぶん、スーツのセンターフォワードが強めのヘディング練習をしてるように見えていたはず。
覚悟を決めて思いっきり後ろに身体をたおしたら、両スネに鋭い痛みが走り、ダブルチーズバーガーを頼んだのに包装紙をあけたらフィレオフィッシュだったときのような声が出た。
ジャケット写真の小田和正も叫んでるけど、もしやスネが痛い? もしくはフィレオフィッシュだった……?
それでもヨロヨロ&パシャパシャしているうちに、それっぽい写真が撮れた。
つま先立ちは最後までできなかったので、小田和正は身体能力もすごい。
ちなみに、全ひらがなのポーズを撮るわけではなく、この写真をシルエット化したうえで切り貼りして形を作っていく。
複雑なひらがなも作れるように、他にもいくつかポーズを撮っておこう。
数ポーズを撮ったところで、ヤブ蚊がめちゃくちゃ集まってきた。逃げろ〜!
蚊のメスは産卵でタンパク質が必要だから吸血するらしいけど、豆乳とかザバスをおだやかに飲んでいてほしい。
◆ フォント作りの下準備
さて、写真が撮れたのでフォント作りの下準備をしよう!
調べた手順をザックリ説明すると
① 文字を「ベクター形式」で作る
② 文字ごとに個別データにする
③ フォント作り専用サイトにアップ
④ 何を入力したらどの文字が出るか割り当て
⑤ ダウンロード
⑥ フォントをインストールで完成
みたいな流れ。
ベクター形式で作ると、拡大・縮小しても輪郭がくっきりしたまま使えるのだ。
それではAdobeイラストレーターで、写真を下敷きにしつつトレースしよう。
写実的すぎるとフォントに向かないので、適度に簡略化しながら進めていく。
おお~~っ!!!!
黒でトレースしたので、早くもフォントの雰囲気! テンション上がってきた!
つぎに、全ひらがなに対応できるように体をパーツごとに分割する。
これらを組み合わせて「に」「ぬ」「ぷ」などを作っていく。「に」「ぬ」「ぷ」の小田和正……?
なお、作るにあたってルールを設ける。
① 1つの文字に頭は1つ
② 手足は最大で2本ずつ
③ 頭は上部など、なるべく人らしく配置する
ルールがあった方がデザインに統一感が出るのと、デザインを自由にしすぎると気持ち悪いうえに失礼なので。
◆ 「あ」
あいうえお順に作っていくわけだが、最初の「あ」が、いきなり高難易度。ガイドとしてふつうのフォントを敷いてみたが、どう考えても人体に向かないだろう。
「わりと良く出来たかも」
「小田和正ではない」
「しっかり怒られそう」
いろんな気持ちが沸き上がって、まさに
“何から伝えればいいのか
わからないまま時は流れて”
状態だがいったん先に進もう。
◆ 「い」
作ること自体は難しくなさそうだ。
左側はかなり小田和正だが、離れたパーツはどうしてもこうなってしまう。
ヒザを曲げてハネを表現できたのは◎。
◆ 「う」
形状的には自然とこうなってしまうというか、こうなるべきというか。
あのスネの痛みを知る者としては、目をそむけたくなる角度だが、デザインはわりと良いのではないだろうか?
パンチをかわしてるようにも見える。
◆ 「え」
作るまえから不安しかない。
どうしても下半身に目がいくが、冷静に見れば腕のほうが緊急手術案件。身体から離れたパーツに慣れている自分が怖い。
◆ 「お」
苦戦するのが分かりきっている。いったいどうすりゃ良いってんだ……。
「なるべく人体らしい配置にする」ルールはどこにいったのか? と言いたいのはわかる。でも人間は「お」じゃないから仕方ない。
ともあれ、あ行が完成。
残りも不安すぎるがガンガンいこう。ここからは各行1文字の紹介とする。
◆ か行「く」
来た! 企画の元となったひらがな!
撮影時のポーズを反転したら「く」に! やっぱり小田和正はひらがなだった!!
◆ さ行「そ」
「そ」は一画目が離れてるフォントもあるが、一筆書きタイプで作ってみよう。
一度ちゃんと健康診断を受けてほしい。
◆ た行「た」
身体から離れたパーツが複数あるな。
べつにもう驚かないというか、何なら納得のうなずきまである。
◆ な行「ね」
これはかなり苦労した。
人体に変換するには違和感がありすぎて、何度も「ね」ってどういう形だったっけ? と確認しながら進めた。
腕と足とがどうなってるのか謎すぎる。正解を知ってる方がいたら教えてほしい。
◆ は行「ふ」
これまた離れたパーツが多い文字。だが、意外とスムーズに作れそうな予感。
どうしちゃったの小田和正。新しいスタイルの駄々のこねかただろうか。
◆ ま行「ま」
制作が進むにつれて、パーツがそろってきて1文字あたり数分で作れるようになってきた。これはどうか?
2分31秒で作れたので世界記録か!?
こんなにグネグネしてるのに、不思議と「姿勢がいいな」と思ってしまう。
◆ や行「ゆ」
これぜったいに難しい。過去のパーツの流用がきかない文字はやはり大変だ。
「エイエイオー!」をやりたい気持ちが前に出過ぎた人?
◆ ら行「り」
たまのシンプルな平仮名にホッとする。
「い」を反転して、足をピーンと伸ばしたような形。よく見れば足がはずれて大問題なのだが、他の文字がおかしすぎて何にも感じなくなっている。
◆ わ行「を」
だいぶ難しい部類に入る文字。でも、これまでのパーツを組み合わせればいけるはず。
「ち」をアレンジしてなんとか完成!
あらためて、『ラブ・ストーリーは突然に』のジャケット写真がこのポーズだったら意味不明すぎて逆に買ってしまうな。
◆ 基本の平仮名が完成!
そんなこんなで基本のひらがな完成!
やはり、長めのカーブがある文字は難しい。「ぬ」とか最悪。
他には「の」が、やむなく頭が突き出て笑ってしまった。
◆ ここらで休憩:小田和正エピソード
小田和正に関心を持つきっかけとなったエピソードがある。
10年以上前になるが、テレビで小田和正に密着したドキュメンタリーを放送していた。
あるツアー先の観光地を小田和正が歩いていると、それに気づいた一般の観光客(おばちゃんたち)が「キャー!」と近寄ってきた。
どういう対応をするのか観ていたら、
「ババア、ババア、
ババアだらけです!」
とカメラに向かってにこやかに言い放ったのだ。おばちゃんたちもゲラゲラ笑っている。
「ババア」呼びに賛同するわけではないが、テレビにもファンにも忖度しない態度に「いいな小田和正」と思ったのだ。
小田和正の口調がヤンチャなことはファンの間では常識らしく、「ジジイと呼ばれても良いのでババアと呼ぶ」スタイルとのこと。
とにかく、人柄を知る機会のなかったアーティストの一面が見られて良かった。
閑話休題。
◆ 濁点・半濁点を作る
「が」や「ぴ」など濁音・半濁音のデザインをどうしようか悩んだが、点点はクツにしてみた。丸はCDでどうだろうか?
その結果……
濁音の小田和正にはクツを脱いでもらうことになった。
◆ 濁音・半濁音も完成!
予定していた全ひらがながこれで完成!
なかなか上手く出来た文字もあるし、これは難しかったという文字もある。
だがとにかく、こうやってズラッと並ぶと達成感はすごい。作って良かった!
カタカナや数字も作ろうか悩んだが、直線が多く、人体ベースでは不向きと判断して見送った。
◆ フォントファイルにしていく
今度はこれらをフォントファイルにしていく流れをサラッと記載する。
やり方はこちらのサイトを参考にさせていただいた。感謝です。
まず、専用サイト「IcoMoon」にデータをアップロード。
つぎに、各ひらがなに文字の割り当て。
これによって、「あ」と入力して「あ」の小田和正が出てくるようになるわけだ。
フォント名を決める。
名付け親というのは何であっても嬉しいし、小田和正風フォントならなおさら。
これで、画面右下の「DOWNLOAD」を押すと……
あとはPCにインストールしたら、グラフィックソフトなどで「Oda-like-01」が使えるようになる。
複雑なやり方に思えたが、優しい先駆者について行ったらいつの間にかフォントが出来ていた……!
ためしに、フリーのグラフィックソフト「FireAlpaca」で入力したら大成功!
PC全般にくわしくない僕なんかだと、基本的に与えられたツールをそのまま使うだけの人生だが、こうして自分が作ったフォントが既成のソフトで扱えることに感動がある。
◆ 応用編
このフォントを使えば、フリー素材の背景と組み合わせてこんな画像もあっという間に作れる。
「フォント? よぐ分がんねんだども」なヤングに説明しておくと、このように「おだかずまさ」以外の文字も自由自在に入力可能。
◆ まとめ
クオリティはともかく、小田和正風フォントを作れてホッとしている。あのポーズはやはりフォントだったのだ。
オリジナルフォント作りは難解というほどの手順ではないので、わりとオススメしたい。手書き文字を撮って作る方法もあったりするので、たとえば小さい我が子が書いた文字をフォントにするのも面白いと思う。
なお、今回作った「Oda-like-01」フォントはフリーフォントとして配布するので、常識の範囲内で好きに使ってもらえたら幸いだ。
また会おうぜ!
※リンクをクリックでDropboxからダウンロードが出来ます。
※フォントはWindows11上での動作確認しかしていません。
※記事内に、小田和正氏による作詞作曲の『ラブ・ストーリーは突然に』から歌詞を一部引用させてもらいました。ありがとうございます。
END