疫病退散! からす団扇を府中市・大國魂神社で買ってきた
※『デイリーポータルZ』の自由ポータルZにてもう一息を頂きました!
すもも祭と悪疫防除のからす団扇
東京の府中市に大國魂神社(おおくにたま じんじゃ)という神社がある。
この神社では毎年7月20日に「すもも祭」という祭りが開催され、果物の"すもも"を売る市が開き、「からす団扇」「からす扇」なるものが売り出されることを最近知った。
※ただし今年は感染予防のため、すもも市は開かれず、団扇・扇の販売は7月18~20日の3日間に分散。
からす団扇・からす扇には五穀豊穣と悪疫防除の願いがこめられているそうで、まさに今の時代にピッタリではないか。 デザイン的にもカッコいいしこれは手に入れるしかない! というわけで7月18日(土)に買いに行ってみた。
大國魂神社のざっくりとした歴史
大國魂神社の歴史と、すもも祭・からす団扇の起源について簡単に説明したい。
この神社はなんと、大化の改新(西暦645年)のころには境内に武蔵国府(今でいう役所)がおかれていたそうだ。聖徳太子のような恰好をした役人たちがこの地で働く姿を想像するとロマンを感じる。
すもも祭の起源も古い。西暦1062年の7月20日、源頼義・頼家という親子が「前九年の役」という戦いに勝った御礼参りを大國魂神社で行った。その際にすももを供えたことで毎年この日にすもも市が開かれるようになり、今のすもも祭に繋がったそうな。
もし供えたのがパイナップルだったら毎年パイン市だったのか……陽気すぎる。その源頼義は真っ黒なサングラスをかけてるし、パイン付きの矢を射るだろう。
源頼義・頼家はケヤキの苗1000本も寄進したそうで(木の苗という概念がこの時代にあったことに驚く)、それが現在、国の天然記念物に指定されている「馬場大門のケヤキ並木」の起源となっている。このケヤキ並木は府中市を代表する素敵な景観で僕も大好きだ。頼義・頼家えらい!
からす団扇・からす扇は、 平安時代(西暦807年)に編纂された『古語拾遣(こごしゅうい)』という神道の資料に、その起源となるエピソードが書かれているそうだ。
概略としては、大昔に神様が「烏の扇をもって扇げば農作物の害虫がいなくなる」と教えてくれたのがきっかけ。さらには病人も元気になり、家々には幸福が訪れると言われ、今でも信仰されているとのこと。
そんな団扇のWeb広告があったら絶対にクリックしないし、一瞬で非表示設定ONだが、古くからの伝承だと聞けば買いに来てしまうのが人間の不思議さだ。
いざ、大國魂神社へ
今年の東京は、雨の降る日が二十日あまりも続いた記録的な梅雨となった。7月18(土)もあいにくの雨だったが、午後から曇りになったのを見計らって自転車に飛び乗る。
我が家から大國魂神社へは8km以上の距離。40分ほどしっかり漕げば着くはずだ。自転車が好きなので距離はへっちゃらだが、この時期の気温と湿気は少しツラい。フゥフゥと汗をぬぐい、ようやく神社に着いた。
大國魂神社の良さは、大勢の人で賑わいを見せる府中駅から徒歩5分の近さという点。 駅を出てケヤキ並木(参道)に沿って歩けば、すぐにこの大鳥居が見えてくる。
ケヤキを始めとする木々は、夏には涼を与えてくれるし、葉が黄色く色づく秋にも目を癒してくれる。府中市には他にも「府中郷土の森博物館」や「府中市美術館」もあるし、大きな公園もたくさんある。関東三大奇祭のひとつ、「くらやみ祭」もある。
文化面が充実していて、自然も多く、適度に栄えており、次に引っ越す機会があるならここも良いな……と密かに思っている街が府中なのだ。
東京競馬場や多摩川ボートレース場といった公営ギャンブル施設へ抱く感情は人それぞれだと思うが、これらの運営が市の財政の一部を支えている点は忘れてはいけない。
新宿に京王線で一本で行けるし、立川や川崎へも南武線で一本。地方出身者の「東京デビュー」の街としてもわりと真面目にオススメしたい。
参道を進み、拝殿へ
閑話休題。それでは境内を進んでみよう! 目指すは参道の先の「拝殿」だ。
大鳥居をくぐると、左手に「宮乃咩神社(みやのめじんじゃ)」が見える。演芸・安産の神様として天鈿女命(あめのうづめのみこと)を祀っているそうだ。アメノウヅメは、『日本書紀』で岩戸に隠れてしまった天照大御神が外に出るきっかけを作った女神様だ。
底の開いたひしゃくが絵馬のように並んでいるのが興味深い。
穴の開いたひしゃくを水がスルッと抜けるかのように、出産もスムーズに行きますようにと願いが込められているらしい。「なるほど」と「むむむ?」が半々くらいの気持ちだ。こういうのは誰が最初に思いつくのだろう……? いわれは分からないが、見知らぬ母子に向けて心の中で手を合わせる。
参道をさらに進むと、巨大な「からす団扇」のお目見えだ! 黒く大きなうちわはインパクト十分で、確かにこれは疫病を退散してくれそうな雰囲気がある。
三本足の「ヤタガラス」かと思っていたがそうではないようだ。"オンリー1"なヤタガラス様ではなく、"普通"のカラスが「オレたちに任せてくれよな!」と未知の疫病に立ち向かう姿にはエモさを感じる。
例えるなら、主役でスーパーロボなガンダムではなく、大量生産ロボの"ジム"を愛しく思う気持ちに似ているかもしれない。
歴史あるカラスとロボットを比べるのは突拍子もないかもしれないが、大量の団扇に姿を変えて疫病から市民を守ろうとするカラスを想像すると愛おしさが増す。
その頭、背中、足には苔や草がみっしりと生えていて威厳がすごい。神社が危機に陥ると石の身体が発光し、苔が剥がれ落ちて動き出すヤツだ……!! さすが大國魂神社、狛犬もカッコいい。
いよいよ拝殿へ、そして団扇を購入!
大きな門をくぐると目の前には拝殿の姿が。造りに派手さはなく、厳かな雰囲気をたずさえている。江戸時代の1646年に火事で焼失するが、1667年に再建されて現在に至るそうだ。なお、本殿はこの拝殿の後ろに建っている。
僕も参拝を済ませ、からす団扇はどこかと周囲を見渡すと……あった!
からす団扇は1枚500円。からす扇は大2000円、小1500円となっている。自分のとベネズエラ出身の友人にあげる分を購入! 「Estoy llorando de alegría!!」(エストイ ヨランド デ アレグリア!! / 嬉しくて泣いちゃうよ!!)と喜んでくれるだろうか? 喜びが薄い場合は、悪疫として国外追放だ。
さて、これで今日の目的は済んだが、境内をもう少しだけ歩いてみるとしよう。すると見慣れない案内板が目に入った。
ひとがたながし……?
どうやら、人をかたどった紙を体に当てた後に川に流すことで穢れ(けがれ)を落とす「人形流し」というものを、境内にある「水神社」の裏手で行えるらしい。
初穂料は100円。これで穢れを取り除くことが出来るなら格安だと思う。僕の場合、すべて清めるのに10万円分くらい必要な気がするから、給付金を使おうかな……。と、こういうふざけた考えこそが穢れという感じがする。
流れていった罪や穢れはどこに行きつくのだろう。母なる海がすべてを受け止めるのか。この人形流しで本当に身が清められるとはさすがに思わないが、これをきっかけに「綺麗な心持ちで生きていきたい」と考えることが大事なのだろう。
来年もまた来たい!
今回はすぐに大國魂神社を出たが、境内や神社の周囲には見どころが多い。時間のある方は散策してみるのも良い。源義経や弁慶にもゆかりのある高安寺など見ごたえがある。
今年は「すもも市」が開かれずに寂しかったが、また来年の楽しみとして取っておこう。心強いカラスたちの力も借りて、少しでも早くこれまでの日常が戻ってくることを願っている。穢れが多いと感じる人は頻繁に来ましょう。
END