※『デイリーポータルZ』の自由ポータルZにて入選を頂きました!
先日、買い物にいく途中、普段は使わない初めての道を通ってみた。すると、ある橋の欄干でこんなプレートを見つけた。
「かみれんじゃくだいろくのはし」
知らないと脳が混乱するが、これは「上連雀 第六之橋」と変換する。上連雀というのは、ジブリ美術館で有名な東京都三鷹市の地名だ。
※「連雀」という地名は、明暦の大火で住む場所を失った神田連雀町の被災者のために、新しい居住区として開発されたのが由来。スズメが連なってたわけではないようです、チュンチュン。
このプレートを見た瞬間こう思った。すごくカッコいいなこれ。
全文字のソーシャルディスタンスがギリギリ。奇跡のバランスによって成り立っている。きっと職人が作っているのだろう。すごい。
そして、これが「第六之橋」ということは少なくとも6つは橋がある。そんなにたくさん橋があるってどういうこと? これは見に行くしかない!
まずは地図で確かめてみる
Google MAPで見てみると、時にまっすぐ、時にジグザグに曲がりながら東西に水路が流れている。「仙川」という一級河川で、この辺りはほとんどがコンクリート水路化しているそうだ。
しかしMAPを最大まで拡大しても、肝心の橋の名前は表示されない……。
いっぽう、昭文社発行の『街の達人 東京多摩』には載っていた。紙の地図は良い。
どうやら「第十二之橋」まであり、その先で暗渠化しているようだ。想像以上の多さに一人笑う。まさか二桁とは。
ページ構成の関係で、第五之橋より西がどうなっているか分からないのが紙の地図の妙味。「ここから先は自分の目で確かめてみてね」というわけか(めくれば分かるが)。
それでは、第十二之橋から西に進み、第一之橋を目指してみよう!
上連雀 第十二之橋
さっそく水路の東端までやってきた。この先は暗渠で水路は見えない。
……と、見慣れないものが視界に入った。水路の「ゴール地点」に謎の機械がある。ゴツゴツと剥き出しで不安になる造形だ。
近づいてみよう。何か書かれている。
「除塵機」というらしい。調べてみたところ、水路を流れてきたゴミや植物などをすくい上げる機械だそうだ。世の中には知らない機械ばかり。みなさん、川にゴミを捨てるのはやめましょう。
枯れた水路は除塵機に吸い込まれてあっさり終わっていた。でも終わりは暗渠の始まり。
というわけで、ここから第十二之橋に向かう。そう遠くないはずだ。
早くも第十二之橋を発見。スタート地点から100mほどだ。ん? プレートの色が……
塗料が剥げて錆びたのだろうか? プレートの大部分が鮮やかな青色になってい……
あれっ? 書体が違う!?
「だいろくのはし」のような力強さはなく、正直なところフリー素材フォントな雰囲気。どういうことだろう?
※記事の流れ上「フリー素材フォント」と呼びますが、もちろんそんなこと無いです
向かいの欄干には漢字プレートがあったが、こちらも優等生的な書体。実のところ、書体は変わらずに数字部分が変化するだけだと思っていた。
こうなると他の橋のプレートが気になってくる。急いで見にいこう。
上連雀 第十一之橋
第十一之橋は目と鼻の先だ。
あっという間に到着。第十二之橋よりも小さい橋で、これではGoogle MAPに名前が表示されなくても文句は言えない気がする。
はやる気持ちを抑えて近づいてみる。
やはりフリー素材。ガッカリしすぎたのか漢字プレートを撮り忘れた。
ふと思ったのだが、「十一、十二は文字数が増えたから簡単な書体にした」とは考えられないだろうか? この説が正しければ、次の第十之橋で力強いフォントが戻ってくるはずだ。
上連雀 謎の橋
次の橋にもすぐにたどり着いたが様子がおかしい。プレートが無い……?
どういうことかと思い、正面から見ると謎が解けた。
まさかの個人宅専用の橋であった。これはデイリーポータルZで大山顕さんが書いていた、『マイ橋』ではないか!!
さらに驚いたのが、Google MAPのデフォルトモードで見たらこの橋が存在しない。航空写真モードで見たらさすがに写っていたが。
うらやましさはないが、一度でいいので知人を家に呼ぶときに「橋を渡ったらウチだからね~!」と言ってみたさはある。
上連雀 第十之橋
マイ橋への興味は尽きないが、第十之橋へ向かう。謎の橋から30mほどの近さだ。
あっ、これはもしや!? 遠目にもフリー素材との違いが分かる。
来たー!! 予想通り力強い書体が戻ってきた。
まず見てほしいのは「じゅう」。
「じ」と「う」に優しく包まれた「ゅ」が愛おしい。二人の子どもかな? こんな親に育てられたい。そして、「の」小さっ!!!
漢字ももちろん良い。「十」の凛とした佇まいよ。「雀」が「連」にくい込んでて好き。さてはこの雀、好きな子にちょっかい出すタイプだな?
……さて、ひとしきり楽しんだところで第九之橋へと向かおう。
上連雀 農業用の橋
おや……? 第九之橋に向かう途中、封鎖されている橋を発見。奥を見ると畑が広がっている。なるほど、こちらもマイ橋ですね。
マイ橋を見たあとなので驚きはない。なお、こちらの橋もGoogle MAPのデフォルトモードでは見ることができない。
畑が南に広がり、見えない橋の先に私道がまっすぐ伸びているのが分かる。
上連雀 第九之橋
ここからはペースを上げていこう。書体も無事に戻ったこ……ん?
フリー素材かーーい!! フォントの法則を教えて!!!
上連雀 第八之橋
第九に裏切られてテンションは低い。次は第八だ。
上連雀 第七之橋
この川が一級河川? へっ、笑わせら! 暑さと書体のせいで少し荒ぶってしまう。
思わず本当に「なんでやねん!」と声が出る。こちらの気持ちをもて遊びすぎだ。
それにしても「しち」の一体感ときたら。一つの字のようだ。右端の「し」はほぼ直線。単体だとナメクジに勘違いされそうだ。そして「の」小さっ!!
漢字プレートの注目は「之」。体をかがめて強引に「七」の隙間に入ろうとしている。「之」が「手と足を潜り込ませている人」に見えてきた。
上連雀 第六之橋
帰ってきた、第六之橋に。一度見ているから安心感がある。
なんと端正な「六」か……。
それにしても、最初にこちらの書体を見たせいで「フリー素材」をつい下に見てしまう。この順番が逆だったとしたら、どちらの書体も純粋に楽しめたかと思うと悲しさもある。
上連雀 第五之橋
次の第五之橋が見えているが、行くまでが何やら複雑になっていそうだ。進んでみよう。
細い道を抜けると第五之橋だ。さてさて、どうなっているかなー……
フリー素材王が来た。
何しろ余白が多い。文字の面積よりも余白のほうが多いとはどういうことなのか? 同じくフリー素材の「第八之橋」と見比べてみよう。
やはりぜんぜん違った。第八が良く見えてくる。
さては、この辺りで業者が変わったな……? そう思わざるを得ないプレート。そして、四隅のネジが丸い頭のに変わっている。力を入れるところが違う!
漢字もキラキラなだけで魅力は薄い。「五之」が「五木寛之」の略に見えるだけだ。
それにしても施工年やプレートの劣化具合から推測するに、数字が小さい橋ほど新しく作ったっぽい? どういうことだろう?
ちなみにここは「水源の森あけぼのふれあい公園」のあたり。ジグザグの水路に沿って、高低差のある公園が作られている。
紙の地図ではこの先には何も書かれていなかった。果たしてこの先に何があるのか?
上連雀 第四之橋?
残すは第四之橋~第一之橋。スパートをかけようと思ったその時だった。
第五之橋の次に待っていたのはまさかの第三之橋。
なるほど……これは推測だが、マンションの部屋番号に不吉な「4(死)」号室を使わないように、橋の数字も4を避けたのかもしれない。
第十二之橋スタートなのに、記事タイトルが「11の橋」なのはこういうわけでした。
上連雀 第二之橋
次の第二之橋に向かおうとしたが、水路沿いに道がない。迂回してみよう。
あっという間に「仙川」の標識が立つ第二之橋。プレートはというと……
書体はフリー素材王と同じ。やはり数字が小さい橋ほど施工年が新しそうだ(施工年月のプレートが無い橋のほうが多く、はっきりとしない)。
数字が小さい橋から作り変えてるのだろうか?
こうなると、第一之橋のプレートを見なくても予想はつく。答え合わせのつもりで、最後のプレートを見に行ってみるとしよう。
上連雀 第一之橋
第一之橋へも水路づたいの道はない。住宅街の細い道を進むと、南北に走る広い道路に出た。数年前に完成したばかりの「新武蔵境通り」だ。
この広い道路で水路は途切れ、ゴールにふさわしい。それではプレートを見てみよう。
金色かい。
「一番の橋」だからなのか、多くの人が行き来する場所で目立たせたいからなのか、まさかの金色で作られていた。でもこういうセンスは嫌いじゃない。
ひらがなのプレートを探すと、どうやら道を挟んだ反対側の欄干にありそうだ。
ひらがなも金色。これがもっと力強い書体だったら、さぞ見栄えしたに違いない。
だが、力強い書体のプレートが作られたのは40年近くも前の話。ああいう一点物を作れる職人さんも減っているのかもしれない。ありそうな話だ。
というわけで、謎も残ったが、モノを通しで見ることの面白さが感じられた行程だった。
あれ? 帰ろうと思ったら、さらに続いている……。
地図で確認すると、途切れたかに見えた仙川は、さらに西に続き、しばらく先で北に曲がっている。さすがにここまで来たら、この先を見ないわけにはいかないだろう。
なお、今いる「新武蔵境通り」を境に、東西で地名が変わっている。東が「上連雀」で西は「境南」。この町名が橋の名前に関係するのだろうか?
「境南エリア」の橋
見た目は上連雀の橋とほとんど変わらないようだ。となると「境南 第一之橋」?
そうでしたか……いちおう最後まで見てみよう。
最後は進行をはばまれ、橋をめぐる探検は終わりを告げた。
エピローグ
それから数日が過ぎた。好奇心がまたも知らない道を走らせる。……ん?
しもれんじゃくさんのはし!?
END