【手作り】牛のなると「なるとうし」を作ってみた!【クッキング】
※『デイリーポータルZ』の自由ポータルZにて入選を頂きました!
そうだ、なると作ろう。
おでんへの恋しさが日に日に増し、ふとそう思った。
ちくわうしという名前なら「ちくわ」を作ればよさそうな話だが、ちくわ作りは意外といろんな場所で体験できて経験者も多い。しかし、なると作りはそうそういない。
検索しても、出てくるのは漫画の『NARUTO』や、なると料理のレシピばかり。ならば、練り物が大好きな僕がやろう。民衆を導くなるとの女神になろう。そして作るからには、より複雑な「なるとうし」にチャレンジしてみよう。
紀文はどう作っているの?
料理はわりと得意なので、いわゆる「普通のなると」の作りかたは想像がつくが、プロの方法もいちおう見るのが大人。「紀文」の公式サイトで確認してみよう。
知りたいのは「どうやって渦巻きができるか?」につきるが、肝心の部分が省略されている。よく見ると「成型2」だけ人力だし、なると作りどころか紀文がわからなくなってしまった。
なんだかあまり参考にならなかったが、巨大企業とシロウトの作りかたが同じわけない。僕は僕の作りかたで、僕だけのなるとを作ってみせますよ。
まずは「普通のなると」を作ってみる
意気込んではみたが、いきなり「なるとうし」はハードルが高い。まずは普通のなるとを作って、そのやりかたを応用することにしよう。
材料として、白いすり身、色づけ用の食紅を買ってきた。これを成形して蒸せばなるとができるはずだ。それでは、さっそくピンクのすり身から作っていく。
つぎが悩みどころだ。2種類のすり身を伸ばしたあと、それをどう棒状に巻いたものか。ねばるすり身は"身離れ"が悪く、グチャグチャになってしまうだろう。なると職人は生のすり身を重ねて、包丁一本で器用に成形するようだが、素人にそれは難しい。
そこで、まずは白いすり身を蒸して「薄いかまぼこ」を作ることにした。そこにピンクのすり身をジャムのように塗り、クルクルと巻けばなるとになる計算だ。
薄いすり身なので蒸し時間は3分にしてみる。肉まんなどを蒸すときは、皮をフカフカにするために蒸気が重要だが、今回はラップで包んでいるのでレンジでも良かったのかも?
などと考えているうちに3分。
ラップをはがすといい感じに固まっている! 魚介のあまい匂いがただよって最高!
というか、こういう「薄いかまぼこ」って需要がありそう。軽くあぶって好きな大きさにちぎって食べたい。海苔を巻いてもオツだし、チーズを巻けばチーちく風だ。生春巻風に野菜を巻いてもありかも! もう助けてくれ~~!!!
……おっと「興奮しても手はとめるな ※」だったな。※埼玉の南西部につたわる古い格言
タイマーが3分を告げた。
ふたを開けると、先ほどと同じあまい香り。巻きすをはずして、しっかり棒状に固まったなるとに包丁を入れる。ここで失敗はしないと思うがどうだ……。
普通のなるとが無事に完成! あらためて、すばらしいビジュアルだなぁ。この調子で次はいよいよ「なるとうし」作りに進もう!
これを読んで作りたくなる人がいるかわからないが、普通のなるとのレシピはこちら。
②白すり身に食紅を適量入れ、ピンクすり身を作る。白とピンクの量は3:1程度
③巻きすにラップを敷き、白すり身を厚さ数ミリにのばす
④③を中華鍋や蒸し器で数分間蒸、薄いかまぼこを作る
⑤白すり身をとりだしたらラップをはずし、ピンクすり身を上に薄くぬる
⑥⑤をクルクルと巻き、巻きすでギュッと巻いたら数分間蒸す
⑦とりだして冷ましたら完成
「なるとうし」の作りかたがわからない
作りかたの基本がわかったので、本命の「なるとうし」に挑戦したい。だが、「うし」の部分をどう作ったらいいのだろう?
いろいろ検索してみると「株式会社 北村」という、なるとの専門メーカーが、オリジナルなると作りを請け負っているではないか。なにかヒントを見つけたい。
オリジナルの例として温泉マークのなるとが載っている。旅館の食事でお吸い物にこれが浮かんでたら嬉しいな。逆さにすれば「なるとクラゲ」として水族館でも売れるぞ。
このくらいの型でどのくらいの値段になるんだろうか?
想像以上の金額に絶句してしまった。卒業アルバムの僕の名前に誤字があり、上から修正テープが貼られていたとき以来の絶句だ。25万円というと3人家族が特別給付金30万円を使ってようやく依頼できる金額。家族会議をひらいても「対応できません」で終わりだ。
うーむ……プロでもこれだけ手間がかかるとは。どうしたものか。
悩んだ結果……まさかの紙?
型をどう作るべきか。薄いプラ板? 細かく折り曲げられるだろうか。金属では作れない。シリコンとかゴム? 扱ったことないぞ。木? 布? うーん……ダメだなこりゃ。
考えることをやめ、「こうなると困ったな」という秋が深まりそうなダジャレが浮かんだその瞬間、本棚にはさまった紙が目に入った。
抜きとって触るとすこし厚みがある。光沢もあり、すり身の身離れがいいかもしれない。もしかして……これいけるかも? 光沢の成分が気になるが死ぬことはないだろう。可能性は低いけど、なると専用紙かもしれないし! 決めた。これでやってみよう。
※マネしないでください
いけるのでは? 紙による型作り
道筋は見えた。ここからの手順を確認しておく。
① 紙で牛の型を作る
② 型にピンクのすり身を入れて蒸し固める
③ それを白いすり身で包み、ラップでくるんで蒸す
④ 巻きすでギザギザをつけて完成
……よし! それでは牛の形になるように、アルコール消毒をした紙を折っていこう。
実のところかなり不安だったのだが、作った型を見たら急にいけそうな気がしてきたぞ。内側のツルツルとした光沢で、すり身がうまくはずせればいいのだが。次に進もう!
なるとの成型、開始!
ピンクのうしを作っていくわけだが、型を広げてすり身を厚く塗る作戦でいってみよう。塗ったあとで閉じれば、すり身のつまった牛になる計算だ。
とにかく牛が好きなので、牛の形に嬉しくなってしまう。
すり身はキレイにおさまった。だが、型がやわらかく、このまま蒸すとすり身が膨張して形がくずれてしまうかもしれない。そこでこんな対策をしてみる。
「谷折り」部分に割り箸をあてて輪ゴムでしばる。これで膨張はふせげそうだが、輪ゴムの圧で型がぐにゃぐにゃになってしまった。しかも、水分が染みこんでかなり不安定だ。のんびりしていられない。
さらに型崩れが進んでしまい、体調をくずした牛に見えてつらい。厚みがかなりあるので蒸し時間は7分くらいでいいだろう。静かにふたをし、いよいよ蒸していく。
さて7分が経った。輪ゴムと割り箸をはずし、紙の型をはがしてみよう。
えーと……ここをこうして、ゆっくりと……むずかしいな……強引に……あーっ!?
なるとの最終形が想像できてしまうので、ここの写真を載せるのはひかえるが、ハッキリいうと紙の型は大失敗だった。髪の毛にくっついたガムと同じくらい、紙にすり身が密着している。対応次第でしばらく学校の欠席もありうるレベルの危機だ。
慎重に紙をはがしてみたが、すり身はボロボロ。耳や角が欠けてしまったところもある。だが、ここまできたら最後までいくしかない。白いすり身でピンクの「うし」をやさしく棒状に包み、ラップで巻いて中華鍋で蒸しあげる――――
そして、これが苦労の末にできあがった「なるとうし」の姿だ。オーーープン!!
牛だ!! 耳や角のエッジはなくなり、だいぶ下膨れな顔になったが、ギリギリ牛に見える「なるとうし」ができたのではないだろうか。あーー……ホッとした。
なるとを作ってみて
紙とすり身が密着しているのを見たときは、「これは失敗かもな」と半分あきらめたが、なんとか見せられる形になってよかった。
コピー紙のせいで失敗しかけたわけだが、ふと「牛乳パック」ならどうかとひらめいた。あの裏側はツルツルだし強度もありそうだ。次に作るときは牛乳パックでやってみたい。
というぐあいに、変わった型のなると作りは難しい。だが、普通のなるとは料理に慣れた人であればそれほど苦労しないはず。この冬、レッツ・なると作り!!